2023 自治医科大合格 ④(終)
Nくんの自治医科大学合格の報告を受けた同じ日。
Nくんの弟も塾に来ていたので会話をした。
「兄ちゃん合格して良かったね」
「あ、はい! ぼくもさっき知ったんですよ」
「実はさっき兄ちゃんから頼まれたんだけど」
「…?」
2時間前のNくんとの会話。
「先生、これからは僕の弟をよろしくお願いします」
「うん、わかってる」
「いい大学へ弟を通してください」
「うん」
「いや、違うな…」
「ん?」
「弟が望む大学…そこに弟をよろしくお願いします!」
「わかった」
「僕を超えるくらいの学力にしてください」
「うんうん…」
Nくんの弟はとても勉強が嫌いな中学生だった。
成績も順位的にはかなり学年の後方にいる。
「塾なんか絶対に行かない!!」
そう言ってはばからない弟に、兄貴として話をした。
「北斗塾なら必ずお前の希望する大学に行かせてくれるよ」
「北斗塾に入れば絶対にお前だって成績は上がるから!」
そう力説する兄の言葉で弟が勇気を出して無料体験に来た。
無料体験後、迎えに来たお母さんと帰るときになった。
「今日の体験は無事に終わりましたよ」
「どうもありがとうございました」
塾を嫌がるのではと心配していたお母さんの表情が、
その瞬間に明るくなった。
「じゃ、お気をつけて」
「ありがとうございました」
ペコリと頭を下げてから母と息子(Nくんの弟)は、
扉の開いたエレベーターに乗った。
扉が閉まり始めた。
それを見てくるっと振り返って指導室に戻ろうと、
2,3歩あるいた私の頭の後方から声が聞こえてきた。
「お母さん、すっごいおもしろかったよ!」
Nくんの弟の元気な声が扉の向こうから聞こえた。
…あの日から月日が流れ、今になった。
「兄ちゃんがね、弟をよろしくって」
「はいっ! 頑張ります!」
全然勉強しなくて困っているんですよ…。
そうお母さんが嘆いていた息子(Nくんの弟)は、
もういない。
いるのは、私をまっすぐ見つめ返してきた、
やる気がみなぎっているNくんの弟の目だった。
こうして成功物語は連鎖していくのだ。
(終)