塾長の考え(集団授業の落とし穴)②
「この授業を聞いてわからない生徒はいないよ」
「質問なんて出るわけがない授業だ」
「いやぁ、とにかく驚くほどわかるわ」
「あっという間に解けるやり方ってあるんだね」
今から31年前に私はある塾の事務室にいた。
その塾は北斗塾ではない。
北斗塾はその翌年に創立するから。
当時上記のようなセリフを私は聞いた。
恩師であるM塾長とその友人であるH塾長、
彼らの個人的感想だ。
いったい彼らは何の授業のことを言っているのか?
その年の2月をもって、
私はその塾の講師を辞めることが決まっていた。
独立するからだ。
自分の理想の学習塾を創ると決めたからだ。
私は当時そこの塾の高等部の講師だった。
高校生に指導をすることは難しいと感じていた。
それは当時の私の力量が指導者としては、
明らかに未熟だったからだ。
その当時の生徒たちには、
今思い出しても悪かったなと思う。
あのときM塾長もH塾長も研修帰りだった。
東京の某予備校の授業を研修として、
受けてきていて2人とも興奮していた。
「あんなわかりやすい授業があるとは!」
そんな言い方もしていた。
私個人は、
「大げさなことを言っているな…」
と心の中では思っていた。
なぜなら、
私個人は浪人した経験はないし、
予備校に行ったこともないけれど、
おおよそ予備校講師の授業とはどういうものか、
それを知っていたからだ。
もちろん「ライブの授業」の迫力は知らない。
だが「授業の内容」はおおよそ知っていた。
それは「実況中継」と呼ばれる参考書が、
ふつうに書店で販売されていたからだ。
その中身を見る限り、
予備校講師(特に参考書を執筆するような)が、
どのくらいわかりやすい授業をしているかは、
私なりに把握していた。
翌年私がその学習塾を辞めたため、
その学習塾には某予備校の授業が受講できる、
最新型の高価なシステムが導入された。
当時私が残してきた形になった生徒たちは、
各々が不安感をもっていたが、
直接私も彼ら彼女らを説得して、
誰も退塾しないように取り計らった。
私の説得に応じた生徒たちは、
私の言葉を信じて、
その後はその塾の採用した、
某予備校の授業システムを使って、
受験勉強をすることになった。
私は独立した。
そして、
残された生徒たちが受講しているであろう、
その某予備校の授業を私もある方法で、
じつは受講した。
かなりの金額を払って受講した。
毎日受講した。
毎日2時間ほど夜中に受講した。
夜中の3時まではがんばって受講した。
たった1人で受講をし続けた。
「なるほどね…」
映像を通じて東京の某予備校の講師、
一流講師と呼ばれる人たちの授業を、
私も1年間受講し続けた。
「やはりわかりやすいな…」
M塾長やH塾長と同じような感想をもった。
そうあの「実況中継」(参考書)を、
読んだときのような感覚。
「この授業は今の自分にはできないな…」
そう思った。
(続く)