「じゃあ、またね」
先月のある日のこと。
高校3年生の生徒(女の子)がやって来た。
「塾長~、合格しました!」
「おおっ」
差し出された合格通知書。(ネットで印刷されたもの)
見てみると同志社大学の法学部に合格していた。
「いや~、良かったねぇ」
「はい、めっちゃ嬉しいです!」
「第1志望だったもんね」
その生徒との付き合いはもう長くなっていた。
一瞬で今までの出来事がサーっと頭をよぎった。
こういう時って不思議と今までのハイライトみたいなものが、
頭に浮かぶ。
元々明るいその子の笑顔が今日は特別に見えた。
同時にその子のお母さんの顔が浮かんできた。
これもこういう時にはよくあること。
「で、お母さんは…何て(言っている)?」
「『良かったね~』って言ってくれました」
「そうか、それならいいんだよ」
「ああ、あと、母が塾長に…」
「何?」
「『ありがとうございました~と言っておいて』って…」
「そうか…、フフフ」
質問をしに来ていた高2の男の子がこの光景を側で見ていた。
「ところで関西学院大も受かっているんだね」
「はい」
「同志社大に行くんでしょ?」
「はい、もちろんです!」
「そっか、本当に良かったね」
「はい!」
「じゃあ、これでお別れか…。今までよく頑張ったね」
「…はい」
その生徒(女の子)の目がみるみる涙目になってきた。
私が差し出した右手を握り返してくれたその生徒。
今まで本当によく努力してきたよね。
そのお母さんもいつも二人三脚で頑張って来たよね。
センター試験前で毎日23時過ぎまでその子を指導していた時に、
お母さんは、毎回塾の玄関近くまで、
お迎えに来てくれていたよね。
結果的にセンター試験も取れたよね、点数。
担任の先生から志望大学のことで、
「これは…賭けだね」
そう言われた大学入試も無事に合格で終わった。
思い起こせば指導で夜遅くまで塾に残ったとき、
すごく寒かったあの時の夜も、
「お母さん、まさか外で待っているということはないよね?」
そう確認したときも娘は普通に、
「え?、待っていると思いますよ」
「ダメだよ、それ! 車じゃなくて外で立っているんでしょ?」
「はい」
「も~う、今すぐ帰んなさい!」
そんな夜もあったよね。
母親の健気な努力もその生徒の合格に結びついた、
大事な要因だったと思う。
最後に、
「じゃあ、またね」
そう言ったときその生徒は目が真っ赤だった。
「じゃ、塾長、…今までありがとうございました」
「うん」
「さようならっ!」
「うん、さよなら…」
側にいた高2の男の子に私は言った。
「おい、次は君の番だよ」
その子が答えた。
「はい、わかっています!」
「君の時も『じゃあ、またね』で終わりたいんだけど?」
「それって、最高の終わり方じゃないですか!」
こうしてまた次の世代が受験生となっていく。
そして、
また「負けられない戦い」が続いていく。