情報大洪水の時代(その10)
同じようなケースでかつて痛い目にあったことがある。
その時は塾生(高校生)ではなく予備校生だった。
前年のセンター試験で700点。
某予備校に1年間通ったけど医学部受験に失敗した生徒だった。
その生徒の場合も成績に関しては同様で順調だった。
目標点数を810点以上に設定していたその生徒は、
模擬試験では夏以降にグイグイと点数が上がり始めて、
12月のプレテスト時点ではもう800点以上は当然可能、
そんな状態に仕上がっていたのだった。
だからこそ悪魔がやって来て悪さをする。
人は絶好調の時こそ、
同時に、
悪魔がやってくるということを知らなければならない。
もう来月に迫ったセンター試験での高得点は、
(おそらく)取れるだろうと確信できたから、
医学部医学科への進学の可能性を少しでも上げるために、
今からでもいいので私大医学部対策を新たに進めてください、
そのように親子で申し出てきたのだ。
「国立大医学部医学科しか受けませんから!」
予備校入学時の最初の約束は簡単にくつがえった。
親子ともども深々と頭を下げて懇願してきた。
面談のテーブルにおでこがくっつくのでは?
そう思えるほど頭を下げてなかなか上げない。
そんな状況で断れる勇気は当時の自分にはなかった。
「先生の作戦立案を何とぞよろしくお願いします!」
お母さんに満面の笑顔で言われるともう反論できなかった。
その時も私の「無理ですよ…」のセリフは意味をなさなかった。
相手が結論を初めから決めてきているとき、
そんなときはこちらが理性的に説明しても、
まず聞き入れてもらえない。
その時までにも何度も経験してきたことだった。
(続く)