情報大洪水の時代(その7)
学校推薦で大学に、それも医学部医学科に確実に進学できる。
そのこと自体がおかしいとは思わなかった。
そういう制度もあっていいのかなと、そのときは思ったのだが…。
「どうして確実に合格できるのですか?」
「先生、それはですね…、ちょっといいですか?」
お父さんの声が、じゃっかん、小さくなった。
「今までこの学校推薦で合格しなかった生徒はいないらしいんですよ」
「え~、受ければ確実に合格できるのですか、医学部に??」
「先生、ちょっと言いすぎました。試験が一応あるんですよ」
「それは面接か小論文ということ…ですか?」
「その両方ともあるのですが、学科試験も当然ながらあります」
「え、学科試験? 教科は何ですか?」
「それは●●と▲▲と■■です」
「まさかとは思いますが、それは受ければ自動的に合格点を取れる試験ですか?」
「いやいや、そんなことはないですよ、もちろん」
「と、言いますと?」
「やっぱりその教科で合格点を取らないとダメなんですよ」
「え、それなら結局は実力で合格しないといけないのでは?」
「もちろんですよ!」
「え、〇〇ちゃん(生徒の名前)よりもずっとできる生徒は校内にたくさんいますよね!?」
「もちろん、たくさんいるんですが、うちの子に学校側から指名が来たんですよ」
「な、何で単独指名が来たんですか?」
「この1年間で急激に成績が伸びた生徒がいる、それはうちの子だと言われました」
「は、はぁ…、そんな理由で…ですか?」
「そんな理由とは…、先生も失礼な言い方をしますね」
「あ、今のは、すみません…」
ここで私は不安になった。
「あのう、●●と▲▲はいいのですが、■■は一切私は指導していない教科ですが…?」
「それもわかっていますよ、地元の国立大受験には■■は必要ないですからね」
「その教科の学習指導はどうするのですか、試験されてもほぼできないはずですよ?」
「そこは、先生、今からでもひとつよろしくお願いしますっ!!」
「ええっ!? 今からやっても無理ですよ、時間がなさすぎますよ!」
「そこを何とか…、この通りですっ!!」
「いやいやいやいや、そんな簡単にいく話ではないですから…いや、本当に…」
「お願いします、子どもが医学部に行けるチャンスなんです!」
深々と頭を下げられてしまった。
(続く)