塾長の考え(ラーメン屋の店主)
お気に入りのラーメン屋がある。
37年間通ったラーメン屋。
「こんなにおいしいラーメンはない」
と思うほど私はファンだった。
あるとき店主に声をかけてみた。
いろんな話になったが、
孫のことがかわいくてかわいくて、
しょうがないといった話が、
一番印象に残っている。
そのお孫さんだが、
ある年に宮崎西高校理数科に合格した。
そして今度は、
宮崎大学医学部医学科を目指して、
猛勉強中とのことだった。
「いや~、優秀なお孫さんがいますね」
「そんなことはないですよぉ」
「いやいや、理数科でしょ、すごい」
「そうなんですか?」
「そうですよ、もちろん」
「そんなすごいところとは知らなかった」
「お孫さんここに遊びに来るんですか」
「いや~、もう全然来ないですわ…」
「そうなんですか」
「小さいときはよ~く来てましたわ」
「あ~、やっぱりそうなんですね」
「わたしの餃子が好きでしてね…」
「おいしいですもんね、ここのは!」
「ありがとうございます」
「いつまで来ていたんですか?」
「いつ頃までだったかな~」
「2年くらい前ですか?」
「う~ん、中学生くらいまでだったかな」
「え~、結構前になりますね」
「…、学校が忙しいみたいですよ」
「なるほど理数科ですもんね、忙しいはず」
「勉強じゃ部活じゃで忙しいみたい…」
「おじさんの餃子食べたいでしょうね」
「いや~、どうだか…(苦笑)」
「食べたいに決まってますよ!」
「へっ、へっ、へっ(笑)」
「お孫さん医学部に合格するといいですね」
「う~ん、どうかなぁ…」
「おじさんの遺伝子が良かったんでしょ?」
「何をご冗談を!(笑)」
「きっとそうですよ(笑)」
「いやいやいやいや(笑)」
出来上がったラーメンと餃子を食べる。
メチャクチャうまい。
「じつは金銭的な援助もだいぶんしたんです」
「(モグモグ)え、そうなんですか」
「娘(孫のお母さん)に頼まれてね…」
「…そうだったんですね」
「やっぱり孫がかわいくてね(笑)」
「おそらく…使い道は教育費でしょうね」
そして1年後。
「お孫さんどうなりました?」
「おかげさまで医学部に受かりましたわ」
「え、すご~い。良かったですね」
「へへへ、ありがとうございます」
「おじいちゃん、合格したよって?」
「いや、来てはいませんけど…」
「え、来ていない?」
「娘からメールが来ただけです」
「え、それだけ?」
「ははは、そんなもんですよ…」
「…」
その後店主は体調不良で引退した。
「老骨にムチ打ってもっと稼がないと」
笑いながら話してくれたことを、
今でも鮮明に思い出す。
私はその「おじちゃん」にも、
あのラーメンの味にも、
今後もう会うことはないのだ。
「親の心、子知らず」と言うが、
じいちゃん、ばあちゃんだって、
わが孫のことをいつも気にしている。
お孫さんにはまわりに感謝できる心を、
もった医者に成長してほしい。
そう願った。