情報大洪水の時代(その22)
「それら19の塾や予備校の代表や責任者たちと会ってきたんですよ」
「そうなんですか」
「うちの子は今年センター試験で700点近く取りました、と」
「…はい」
「うちの子をそちらに預ければ、来年『東大理Ⅲ』は合格できますか、と」
「そんな風にストレートに聞いたんですか?」
「そう、そしてみんながみんな、各予備校の責任者が全員同じ答えだったんですよ」
「お~、そ、そうですか…、それは、そうでしょうね…」
「はぁ? 何と答えたかわかりますよね!?」
「わかりますよ、『ちょっと難しいですね』という感じの答え方ですか?」
「な~に、言っているんですか!」
「え、とおっしゃいますと…?」
「みんながみんな『うちにお任せください』ですよ!」
「えっ、本当ですか!?」
「本当ですか、じゃないんですよ、プロの皆さんが全員そう答えたんですよ!」
「『合格できる』と保証するようなことを言ったのですか?」
「そりゃそうですよ、『うちに来れば合格できます!』とはっきり言いましたよ!」
私は内心あきれてものが言えなかった。
その「プロの皆さん」とやらは何と無責任なことを言うのだろうか、と。
まだ会ったこともない生徒。
どんな性格かもわからない生徒。
合格が簡単に手に入るかのうように断言する行為。
しかも志望は東大理Ⅲなのに。
お父さんが私に畳みかけるように言ってきた。
「さあ、先生。東京の本物中の本物のプロが『大丈夫』と言っているんですよ!」
「…」
「先生、悔しくないんですか?」
「…」
「私は先生に『はい、わかりました任せてください!』と言ってほしいんですよ」
「…、そうなんですか?」
「そうですよ、あたりまえでしょう!?」
「…」
「さあ、先生、言ってください、このまま引き下がるつもりですか?」
お父さんは言うだけ言ってじっとこちらを見つめている…。
(続く)