塾長の考え

塾長の考え(私大医学部受験)⑨

浪人することは勇気がいる。

 

初めて浪人生を指導したのは、

私が23歳で独立直後だった。

そう塾長1年目である。

近所の高3生のBくんが受験に失敗。

私の母親が近所付き合いのあった、

Bくんのお母さんに声をかけたのだ。

その縁で来たのがBくん。

まじめで普通に学習を頑張る生徒。

簡単な指導以外はほとんど自習。

簡単な指導とは質問に答えるだけ。

特にプランも立てなかった。

(当時の私にその技術がなかった)

それでも1年後には広島大学に合格した。

「合格、おめでとう!」

ハッピーな結末で終了。

要するに、

Bくんが単に優秀な生徒であって、

勝手に勉強して勝手に合格していく。

たったそれだけのことだった。

ほとんどの予備校はこれをやっているな、

そう確信したのはそれから13年後のこと。

成績のいい生徒にはドンドン割引の金額を、

お母さんたちに伝えては焦らせる。

「今だけですよ」と。

「寮がなくなっては大変ですよ」と。

「〇〇割ですよ、特別なんですよ」と。

予備校入学後どれだけ生徒に関心を持つか。

それが長期的指導には大事なのに、

生徒を入れるだけ入れて一安心。

あとは…授業初日を迎えるだけ。

その日が過ぎればもう返金はないから。

4月の後半や5月の半ばになって、

授業が全然わからない生徒たちから、

「(予備校を)辞めたいです!」

そう言われても、

「返金はできませんよ!」

そう答えることができるのは、

予備校授業初日の1時間目のチャイムが、

鳴り終わった後から。

「え、何でですか?」

「予備校は1年契約だからです!」

「え~、塾と違うの!?」

「うちは塾ではありません!」

そんなやりとりがあり、

ある予備校の職員の話によると、

「それ(チャイム)までが勝負ですよ」

そういう話を聞いて驚いたことが、

今となっては懐かしい。

 

予備校はあくまでも専門学校。

大学入試というハイレベルの問題を、

どうやって解くのか、

その解法をレクチャーするところ。

講師が1人で生徒は80~130人程度。

校舎の環境によって定員は違うが、

紛れもない集団授業。

それも高校とは比較にならないほどの、

大集団授業

元々成績のいい生徒であれば、

1年後に望むような結果が手に入るだろう。

しかし、基礎学力のない生徒は?

そうやって経験を積んで、

親と子は賢くなっていくしかない。

 

それを3年間も繰り返した。

それがHKちゃんだ。

彼女が来てからというものの、

彼女が信じていた予備校の常識を、

ことごとく覆していった。

「え、何で?」

「あ、そうか。なるほど」

「え、どうしてですか?」

「あ、そういうことだったんですね」

「え、おかしくないですか?」

「あ、おかしいのはこっちだったんですね」

「え、これでいんですか?」

「あ、これじゃないといけないですね」

「え、それはさすがに…」

「あ、そうなんだ…知らなかった」

こんなやり取りが本当に多かった。

 

(続く)

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