塾長の考え(父親)②
小学6年生(12歳)だった。
ある朝父親が鏡の前に立っていた。
上半身裸で逆三角形の肉体。
「思いっきり殴ってみろ」
いきなり息子である自分に言ってきた。
「そんなことしたら大変なことに」
「なあに大丈夫、やってみろ」
自分の腹めがけて息子に殴れと言う。
思いっきり殴れるわけないだろと、
手加減して殴ってみる。
ビクともしない。
「本気でやってみろ!」
今度は力を入れて殴ってみた。
自分のこぶしが痛かっただけ。
父の腹筋の方が頑丈だった。
「お父さん、すごいね!」
中学2年生(14歳)だった。
中学入学時に156センチだった身長は、
一気に夏休み前までに伸びてきて、
気がつけば166センチになっていた。
毎朝起きるたびに父親が驚いて、
「また身長が伸びたんじゃないか!?」
と言ってメジャーを持ってきては、
身長を測って柱に横線(キズ)を入れる。
「はしら~のキズは、おとと~し~の」
5月5日の背比べの唄。
本当に同じようなことがわが家でも。
唄の世界が現実に起きるなんて、
思いもしなかった。
寝起きの私はいつだって、
「また測るの?面倒くさいって」
憎まれ口をたたいていた。
自分のことのように喜んでいた父親の、
あの笑顔が今でも忘れられない。
中学3年生(15歳)だった。
あの年、私の身長はグングン伸びて、
177センチにまでなった。
何度寝起きに身長を測られたか…。
あの時のキズは今でも実家の柱に。
成人式(20歳)だった。
写真館に行って2人で記念写真を撮った。
「これはお前のお見合い写真に使おう!」
「何で『お見合い』なんだよっ(笑)」
「ダメか?使わないのか?」
「恋愛して結婚するよ!」
自慢じゃないが父親は自分と違って、
痩せている(スマートだ)し、
おしゃれだし、ハンサムなほうだ。
身長は169センチで筋骨隆々。
昔の人ならわかると思うが、
俳優の宇津井健や古谷一行に似ている。
私はと言えば父とは正反対。
ハッキリ言って母親に似ている。
体形など含めていろいろと。(笑)
それでも唯一「似ているね~」
と言われるところがあった。
それは笑ったときの表情らしい。
父親の職場の人から何人も言われたので、
そうなんだろうが私は、
…多分似ていないと思っている。
父親が慣れ親しんだ会社を辞めた。
会社の規定で定年は55歳だったが、
社長さんが父親を気に入っていて、
55歳のときに取締役に任命した。
おかげで父親は退職しなくて済んで、
私の大学にかかる授業などの支払いは、
滞ることがなかった。
今でもその社長に私は感謝している。
その愛着のある会社を父は67歳でやめた。
私はそのとき32歳だった。
実家に住んでいた私はこの年になって、
初めて知ったことがあった。
それは父親が本当は冗談好きだったことだ。
顔を合わせる時間が多くなり気づいたのだ。
(続く)