塾長の考え(抜歯)
2月14日の真夜中。
今までも時々はしみていた奥歯、「親知らず」。
それの痛みが激しくなってきた。
「今夜眠れるかな…」
翌朝10時。
行きつけの歯科医院に行く。
「虫歯ですよね、しみるんですよ」
「虫歯ではないですね、もう歯が限界ですよ」
「え?」
歯周病が進み歯の根元がぐらぐらに。
どうやら抜歯は避けられそうにないとのこと。
冷たい水を飲んだ時の強烈な「痛み」。
ス~っと息を吸ってみても、ビリビリっとくる「痛み」。
何よりも塾での仕事に支障があったら今は特に困る。
何十年も活躍してきた自分の歯。
愛着があるし、なくなれば食事の時も不便になる。
そう思うと…つらい。
決断しないといけない場面だけれども、
歯医者の先生はあっさりと、
「もう抜かないとダメですね」
プロの眼から見たらそうだろう。
間違っていない。
でも…。
「もう浪人しないといけないね、来年頑張ってね」
不合格が決まり、
受験生が塾の先生からキッパリと言われたときの気持ち。
それはごもっともだけど、間違ってはいないけど、
「そんなにあっさり言われても…」
そう感じるだろうな、そんな風に言われたら。
自分がどんな気持ちなのかをわかってくれた上で、
声をかけてもらえれば、
それが本当の意味で、
「(患者に)寄り添う」ということだろう。
「捨てますか、持って帰りますか?」
「…持って帰ります…」
歯科医院からの帰り道、
歩きながら塾に向かう。
予備校生の受験指導があるから…。
ふと抜かれた自分の歯を見てみると感謝の気持ちがわいてきた。
「今まで長い間ありがとう…」
このとき2年前の12月に亡くなった母をなぜか思い出した。
思えばわが母もこの歯のようにずっと自分を…。
大人になっても…ずっと気にかけてくれていた。
涙が出た。
「親知らず」を抜いたことで、
「親の心」を知れたような気がした。